2018 牡羊座の言葉 島崎藤村

心理占星術家nicoが選んだ今月の言葉は…

疑い、恐れ――ああ、ああ、二六時中忘れることの出来なかつた苦痛は僅かに胸を離れたのである。今は鳥のように自由だ。どんなに丑松は冷たい十二月の朝の空気を呼吸して、ようやく重荷を下したようなその蘇生の思に帰ったであろう。たとえば、海上の長旅を終って、陸に上った時の水夫の心持ちは、土に接吻くちづけする程の懐かしさを感ずるとやら。丑松の情は丁度それだ。いや、それよりも一層もっとうれしかった、一層哀しかった。踏む度にさくさくと音のする雪の上は、たしかに自分の世界のように思われて来た。

— 島崎藤村『破壊』より

牡羊座の言葉

島崎藤村

1872年3月25日岐阜県生まれ。太陽、水星、火星、海王星を牡羊座に持つ。

作家。代表作『破戒』『春』『夜明け前』は「日本の近代文学の本質を知ることができる」自然主義文学の到達点とされる。『破壊』は、明治期の苛烈極まる被差別部落の人間の悲劇を描いた島崎藤村の傑作であり、日本文学史の金字塔である。

魚座の世界は心地よい。「個」を際立出せるのではなく「全体」の一部として、自分より大きなものにその身を捧げ、生命の実感を得るサインだからだ。だから、身を添わせるものさえ見つかれば、魚座は孤独ではない。いつも何かに包まれ、何かとともにある。まるで、母の胎内にいるかのように、そこは「いるべき場所」として守られている。

けれど、目覚めの時がやってきた。もはや、そこは「いるべき場所」ではなく、ただ惰性で「誰か」を生きようとし、「何か」のために生きようとしていただけなのかもしれない。ただ、「個」を生きる勇気がなかっただけなのかもしれない。
そろそろ海から陸に上がり、自分の足で立つ日が来たのだ。ここからは、「自己」を目覚めさせなければならないのだ。1番目のサインである牡羊座は魚座と決別し、重い腰を上げ、世界に向かって一人戦いを挑むことになった。

被差別部落に生まれた瀬川丑松は父の教育に反発心を感じながらも、仕事を失わないよう、社会から捨てられないよう、自分の出生を隠し教師の仕事を続けていた。しかし、自分として存在するために日本を離れ、アメリカへと渡る決断をする。

私たちが「個」を生きるためには、集団の意識から離れることが必要になる。自分の中にある違和感と戦うために、支配星の火星を発動させ、住み慣れた世界に「NO」を突き付けなければならない時がくる。もちろん不安もあるだろう。勇気が何よりも必要だ。孤独と無理解の中で、それでも「私」であることを確立するために旅立つのだ。それが牡羊座の生きる力=サバイバル力ということになる。

藤村は言う。
「古いものを壊そうとするのは無駄な骨折りだ。ほんとうに自分等が新しくなることが出来れば古いものは壊れている」

人の世から差別がなくなる日はこないだろう。けれど、もし一人一人が「個」として生きることを強く望み、その力を得ることができれば、集団に寄ることなく、存在できる環境づくりができる。

新しくなること。それが牡羊座の目指す力なのだ。