2019 魚座の言葉 山下清

心理占星術家・nicoが選んだ今月の言葉は….



自分がいい所へ行こう行こうと思うと、少しもいい所へ行かれない。

いい所へ行こうとしなければ、しぜんにいい所へぶつかる。

いい所へ行こうとするから、いい所へぶつからないんだろう。

著書「裸の大将放浪記」より

今月の言葉

山下 清

1922年3月10日東京・浅草生まれ。魚座に太陽、水星、天王星を持つ。

画家。
3歳の頃に重い消化不良で命の危険に陥り、一命こそ取り留めたものの、軽い言語障害、知的障害の後遺症を患う。色紙をちぎって点描派風に貼ってつくった作品を高く評価された。時折、気ままに国内各地を放浪しては絵の制作を繰り返した。優れた観察力と大胆な色づかいが高く評価され、「日本のゴッホ」と称された。

 12サインの最後は、柔軟サイン・水エレメントの魚座である。柔軟サインとは、環境との自己との調和をつくるため、学び成長することを目的とする。

 最初の柔軟サイン、風エレメント・双子座の段階で初等教育として、言語や計算、関係性など社会生活能力の育成をする。次の地エレメント・乙女座では、教養や訓練を通して獲得した能力、つまりスキル、技能を身につけていくことになる。もともと持っている資質を磨きあげ、仕事として社会に通用するよう成長していく。ここまでが社会化するため、環境と調和するために必要な基礎的な能力となる。

 そして、ここから先は、目的意識や野心、夢や理想といった本人の情熱や強い想いがなければ身につかない能力や学びとなるだろう。火エレメント・射手座は、さらなる学びの機会を必要とする。大学や大学院といった高等教育。また高度な専門的知識や形而上学。さらには、社会生活を営む上でひとりひとりが守るべき行為の規準、善の意識や道徳、または倫理観といった感性。ここまでが射手座が目指す成長となる。

 では、魚座が目指す環境との調和、魚座の学び、身につけるべき教養とはどういったものなのだろうか。

 たとえば、神話や民話といった古くから脈々と受け継がれてきた物語、または数字や記号、音符や絵画、象徴言語といった非言語的世界の教養。または、共感や親和性といった心の理解。そしてさらには、山下清がいうような宇宙の摂理や法則といった「誰もが心も奥で自然に感じ、わかっているはずなのだけど忘れてしまった」ものへの理解。大いなるものと一体にならないと理解できない真理。これが柔軟サイン、魚座が目指すべき知性なのである。

 山下清は、そのキャラクターゆえに、非常に素朴な言葉で世界を表現している。しかし、彼の残した言葉たちは、どれも純粋な真理ゆえに圧倒される。

 ぼくは新聞はめったにみないが、ときどきよむとみんな本当のことばかりではないような気がするので、嘘と本当はどのくらいのわりあいに世のなかにあるものだか、わからなくなる。大ぜいが本当だといえば、嘘でも本当になるかもわからないので、世のなかのことは、ぼくにはよくわからないのです。

 そうなのだ、本当にそうなのだ。わかっているのだけれど、大人の社会では、わかったような顔をして生きていかなければならないような気がしてしまうのだ。本に書いてあったから、大先生が言っているから、マスコミが騒ぐから、だから真実だと信じてしまうのだ。

 そして、歯を食いしばってでも、いいところへ行こう行こうとしてしまうのだ。

 けれど、魚座の段階まで来たのだ。山下清のようにランニングシャツとおにぎりと、そして画材道具を持って、着の身着のまま、ふらりと旅に出るだけでいい。
 そこには執着もなく、強い目的意識もない。自然と宇宙、そして自己との調和がだけがそこにある。

 だからこそ、欲やら義務やらで汚れてしまった私たちの目は見えない、美しい風景、通り過ぎてしまった物語、ささやかな音楽、人々の夢や願いが受け取れるのだ。

 心の中の雑音を遮断し、すべてを受け止め、流れに身を任す。

 すると私たちの中の魚座は、どんな景色が見えてくるのだろうか。