乙女座の季節によせて ~宮沢賢治「銀河鉄道の夜」

うちの息子が小学生の頃、私は息子の通う学校で読み聞かせのボランティアというのをやっていた。「いちごの会」と言って、有志の母親たちが数年前に立ち上げたものだった。月に一度、自分の子供の学年クラスで、朝の活動時間に15分程度の本を読み聞かせするというもので、私は、息子が2年生の2学期から参加を始めた。

 

もともと自分の家庭では、一人息子のために幼少の頃から毎晩読み聞かせをしていたので、わざわざ学校にまで出掛けていくつもりはなかったのだが、人手が足りないというプリントが何回もきたので、ほんの軽い気持ちでお手伝いを始めたのだった。

 

ところが、6年生まで続けることになった読み聞かせ体験は、私が母親として、人として成長するために、とても貴重な支えとなり宝となったのであった。

 

40名弱のクラスを2クラス、月に一度訪ねる時のワクワク感、ドキドキ感は今も忘れない。子供たちがどんな反応を示すか、毎回読み始めるまではかなり緊張していた。でも、子供たちは裏切らなかった!(おおげさかもしれないが!)真剣に食い入るように聞き入ってくれた。気を良くした私は、毎回ちょっとした演出までして、読み聞かせにのめりこんでいったのである。

子育てと絵本の話の続きはまた次回。

 

さて、今月は乙女座生まれの作家宮沢賢治の絵本を紹介します。

 

獅子座の季節、人は灼熱の太陽の日差しや熱風を浴びながら様々な体験をする。いろんな場所に赴き、パフォーマンスを見たり、聞いたり、自ら表現してスポットライトをあびたりもする。毎日建物の中にいようとも、夏を生きることで消耗するエネルギーは半端ないものだ。乙女座の季節は、そんな熱くなった体や混乱した頭の中を次の季節に向かうためにクールダウンしていく、心身ともにメンテナンスする時期と言えるだろう。

 

子どもなら、夏休みの、楽しかった、人によってはあまり楽しくなかった思い出もあるだろうが、そこにある混沌としたもの、それを、「銀河鉄道の夜」は宮沢賢治のもつ独特の世界観に連れて行ってくれて沈静化し、整頓してくれる体験が必要となる。

 

「銀河鉄道の夜」とは、主人公ジョバンニが友人カムパネルラと銀河鉄道に乗って宇宙空間を旅する、大変幻想的な物語である。

カムパネルラは川に落ちた友人を救うためにおぼれ死んだ。乗り合わせる人々もみな死者である。ジョバンニは死後の魂の列車に乗っていたのだ。カムパネルラをはじめ、これらの人々のエピソードを通じて、ジョバンニは「僕はもうあのさそりのように本当にみんなの幸せのためならば、僕のからだなんか百ぺん灼いてもかまわない」と決意する。

「でも、本当の幸せって、なんなのだろう」ジョバンニはカムパネルラに問いかける。「僕まだわからないよ」と答えるカムパネルラ。「僕だってわからない。でも二人で一緒に、本当の幸せをさがそうね。カンパネルラ、僕たち、どこまでもどこまでもいこうね」ジョバンニは言うのだった。「うん、きっといくよ、ジョバンニ」振り返ってみると、そこにカムパネルラの姿はなかった。

 

「人は死んだらどうなるのだろう?」

子ども心にそんな疑問がふと頭をよぎったことはないだろうか?

身近な人の死、テレビで報道される様々な人の死、ペットの死に直面することだってある。悲しみとともに心にずっしりと襲い来る不安や恐怖。

 

「死ぬとどうなるの? もう、お母さんに会えなくなるの? ぼくお母さんに会えないのいやだ!」息子が4歳の時、祖父が亡くなったときの話だ。葬儀の最中もず っといつも通りだった息子が数日たって、突然言った言葉だ。彼はしゃくりあげて泣き出した。その時、私の手元には「銀河鉄道の夜」はなかったのだが、「大丈夫、見えなくなるけど、ちゃんとそばにいるから。わかるようにするから、大丈夫だから。」そう言って、抱きしめていた記憶がある。

 

「銀河鉄道の夜」は死後の世界の話である。大人になって、死後の世界を信じるか否かは別として、この本を読み聞かせすることによって、子どもが懐く死への漠然とした不安や恐怖は、だいぶやわらぐのではないだろうか? 心の端に、この世だけでない世界があると信じることで、今この世で一生懸命に生きることの意味を見いだせることだってある。

 

銀河鉄道での旅を終えたジョバンニは誰にもそのことを話さなかった。だが、彼の心はしっかりと整い、現実世界の日常生活にもどっていくのだった。

 

「銀河鉄道の夜」の作者である宮沢賢治は乙女座である。(1896年8月27日岩手県花巻市生まれ)今から120年前の日本である。しかも、賢治の暮らした東北岩手地方で日々生きるというのはどれほど過酷であったろうか。賢治は作品の中にイーハートーヴという架空の理想郷を作った。

数々のファンタジー作品を残した宮沢賢治は、乙女座の対極に位置する魚座の力を借りて厳しい現実世界を乗り越えていったのだと思う。

 

乙女座の季節、120年前とは違った形の過酷な現実を生きる日本社会。社会に出て恥ずかしくない人間になるために、社会に通用する人間になるために、少しでも、他人より秀でた人間になるために、日々切磋琢磨して生きなければならない子どもたちにとって、現代社会はあまりにも過酷なのである。大人社会の要求するちゃんとした人間像からはずれてしまったら、どうしたらいいのだろう?

 

今、まさに乙女座の季節真っ只中だからこそ、子どもたちを魚座の世界に誘ってほしいのである。魚座の世界を存分に味わった子どもなら、様々な困難に遭遇した時にも、柔軟に対応していける心と知性を十分に身に着けているはずだから。

観覧者数100万人を突破したKAGAYAスタジオ制作のプラネタリウム番組「銀河鉄道の夜」の予告編です。
宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」の幻想世界を、徹底考察し鮮明に再現した作品です。

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