心理占星術家nicoが選んだ今月の言葉は…
4歳の頃、僕の将来の夢は“理解すること”だった。
T・S・エリオットいわく、“私たちは探求をやめない。探求の終わりは、始まりの場所にたどり着き、その場所を初めて知ることだ”
映画「ヨーヨー・マと旅するシルクロード」より
天秤座の言葉
1955年10月7日、中国人の両親のもとパリで生まれる。太陽、水星、金星、海王星を天秤座に持つ。
4歳より父にチェロを学び、5歳のときにリサイタルを開く。1962年ニューヨークに移住。ハーバード大学にも学び、古典文学で名誉博士号。J.S.バッハの「無伴奏チェロ組曲」の再研究を行い、「インスパイアド・バイ・バッハ」と銘打った一連のフィルムを制作。ライフ・ワークとして古代東西の文化を結んだシルクロード音楽を丹念に調査し、多種多様な音楽家たちと新しい音楽を生み出そうという「シルクロード・プロジェクト」を試みている。2006年には国連ピース・メッセンジャーに任命され、若者が音楽に接する機会を広げるとともに、国連の仕事を若い人達に伝える取り組みを行っている。
* * *
私の一連の講座では、たとえば「獅子座だからプライドが高いでしょう」とか「乙女座だから細かいことが気になるでしょう」というように、12サインを性格的特徴として読むことはほとんどない。
その理由は、狭義な意味の中に個人を閉じ込めてしまうような息苦しさ、個人の人生をカテゴライズすることの無意味さ、個人の可能性を限定的にしてしまうことの恐れなどを感じることも多いことによる。だから、講座では努めて12サインを使った性格診断的なリーディングを避けるようにしている。
では、12サインを読まないのかというと、そんなことはもちろんない。6年にわたって毎月、こうして著名な人たちの生き様を題材に12サインの研究をし続けているし、12サインを理解することは、心理占星術に––その中でも特に、生き方・働き方といった職業占星術的分析––大いに役立つものだと認識している。
2022年もユニークな人たちを取り上げてきた。
坂口恭平(牡羊座)、森村泰昌(双子座)といった最近の人もいれば、澁澤龍彦(牡牛座)やトーベヤンソン(獅子座)という今はなき人物もいる。彼らは一様に「自分を生きようとした/生きようとしている」人たちだが、ここで私が「生きようとした」と“進行形的”に表現したことは、私にとって12サイン、特に太陽サインを考える上でとても重要である。
なぜなら、ユングの言葉を借りれば、「自己実現は、常に成長のプロセスの中にある」からだ。
12サインを表現するなら固定されたパーソナリティとしてではなく、目指すべくエネルギーの方向性として表現することで、むしろ12サインの成長物語がいきいきと見えてくるのではないか、その人が「生きた」ではなく「生きようとした」躍動感のあるドラマが見えてくるのではないか、そのように考えてみることもできるだろう。
つまり、今回取り上げたヨーヨー・マが偉大な音楽家ヨーヨー・マになった経緯ではなく、ヨーヨー・マがヨーヨー・マとしてあり続けようとしている姿、努力の、葛藤の、栄光の過程を少しでも垣間見ることができれば、そこで初めて12サインリーディングの意味があるのではないかと思う。
ということは、たとえば風エレメントを表現するにも、「つながり」や「社会貢献」といったキーワードを並べるだけではダメなのだ。
葛藤しながらも「つながり」を求めずにはいられない、世界との阻害を感じながらも「貢献的」でありたいともがき続ける、そういった風エレメントの成長の過程を理解することが大事になる(こうした成長における心理背景を、心理ホラリー&コンサルテーションチャート講座で繰り返し演習している)。
この映画はヨーヨー・マだけではなく、ヨーヨー・マのプロジェクトにかかわったシリア、イラン、スペイン、イタリア、中国、日本など総勢50名以上の楽器演奏者たちのドキュメンタリーとなっている。それぞれが複雑な祖国の事情を背負い、安穏な日々を希求しながら、平和の意味を音楽で問いかけ続ける、そのようなストーリーだ。では、今月のサインである天秤座は、どういうプロセスを生きようとするサインなのだろうか。
オープニング、ステージ裏で講演会の出番を待つヨーヨー・マは、自分を紹介する司会者の言葉に対し、ひとりツッコミを繰り返す。
司会者: 氏の多岐に渡る活躍は、観客との対話というかたちで証明されており…
ヨーヨー・マ: 何を証明した? 何もだ。
司会者: バランスを維持し…
ヨーヨー・マ: バランス? バランスなんて…笑えるよ
司会者: 90枚以上のアルバムを発表し…
ヨーヨー・マ: 90枚? そんなのどうでもいい。ただの数字だ。人の作品もある。
これがひとつの天秤座的(風エレメント的)ふるまいである。
とりあえず、すべてに反証をしてみる。正しいか間違っているか、どっちがいいのか悪いのかといった議論をしたいわけではなく、反証することでそのものの在り方を問い直すというのが、彼らの理解のためのひとつのスタイルであり、そしてこれらは通常、脳内、もしくは隠れて行われている。なぜなら、天秤座の反証は人をやっつけるためのものではなく、世界を把握する方法の一つであり、自分自身に対する確認作業––ほんとうに自分はそのような人間なのだろうか––でもあるわけだ。
その後、ヨーヨー・マはカメラに向かって言う。
常に問いかけている。
自分は何者で、どう世界に適応すべきか。
風エレメント、もしかしたらその中でも、特にホロスコープでは社会(南半球)の入口である7ハウスに位置する天秤座は、「人が世界(人や社会)と向き合ったときどう生きるか」をとりわけ強く意識するサインなのではないだろうか。だから数多くの考える人(思想家、宗教家)を輩出しているのかもしれない。
そして、彼は重なり合う複数の円を描き、重複した部分を塗りつぶしながらこう語る。
文化と文化が重なる。そこから新たなものが生まれる。多様な音楽家の集団から、何が生まれるのか知りたかった。異人たちの融合だ。
確かに、活動サインらしく「シルクロード・プロジェクト」を立ち上げ、個性豊かに音楽家が集まる場を生み出し、唯一無二の音をつくり出そうとした。これはまさに天秤座太陽の創造性と言えるだろう。そのプロセスの中で、彼がもっとも欲したことは、「知る」ことだった。
作品の最後には、冒頭の言葉を受けて、彼の息子がこのように結ぶ
4歳の頃、僕の将来の夢は“理解すること”だった。
T・S・エリオットいわく、“私たちは探求をやめない。探求の終わりは、始まりの場所にたどり着き、その場所を初めて知ることだ”
彼(父)は家へ帰るのではなく離れようとしている。音楽からも一つの曲からも離れることで、再び故郷に回帰することができるんだ。
なんて風エレメント・天秤座らしい言葉なのだろう。同じ活動サインである蟹座と山羊座と90度であること、故郷(蟹座)やアイデンティティ(山羊座)を象徴するサインと葛藤の角度(90度)を取ること、つまり遠く離れ、探求を続けることで、天秤座はようやく、私が求めた“理解”を得ることができるということだ。
これが天秤座に対応しているタロットカード大アルカナの7番目の「戦車」の意味––自分を知るために、故郷から遠く離れて新天地を目指す––にも通じている。
天秤座の季節、私たちは今こそ、ヨーヨー・マの言葉「文化と文化が重なる(占星術において文化や価値観は、金星の担当)。そこから新たなものが生まれる。多様な音楽家の集団から、何が生まれるのか知りたかった。異人たちの融合だ」を体現してみる必要があるのかもしれない。
こんなちっぽけな島国・日本であっても、むしろちっぽけだからこそ、理解し合えるということが大前提になっているが、すでに、いや、もしかしたらもう長いこと、私たちはお互いを理解し合えていたわけではないのかもしれない。それならば、「何が生まれるのかを知る」ために、自分から離れ、いろいろな文化=価値観に触れてみることは、まさに今こそ必要なふるまいだと言えるだろう。
人の人生を知り、自分の生き方を考える講座、10月開講
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