2021 獅子座の言葉 アルフレッド・ヒッチコック┃自分の陰を開放し、表現の力に変えていく

心理占星術家nicoが選んだ今月の言葉は…

 

 

光と影が輪郭をつくる。すべては光と影なのだ。

「定本 映画術 ヒッチコック/トリュフォー」より

獅子座の言葉

アルフレッド・ヒッチコック

1899年13日ロンドン郊外の食料品商の家に生まれる。太陽と金星を獅子座に持つ。

サイレント映画の字幕制作者を経て映画監督となる。生涯で計53本の長篇作品をつくりあげた。<ヒッチコックタッチ>と呼ばれるサスペンス映画の至芸を駆使し、独自の映画文芸を完成させた。80歳でハリウッドに死す。

 

 

 実は今回、最初に考えていたのは同じく獅子座生まれの谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」もしくは「鍵」だったのだが、いわゆる「獅子座らしい」といわれるテキストを見つけられず、第候補のヒッチコックを取り上げることにした。

 そこで谷崎にも通じる獅子座が持つ不自然なほど人工的な美の世界、フェティシズムとも言える偏愛の世界などを書いてみようか、と思っていたのだ。けれど、このヒッチコックの言葉――光と影が輪郭をつくる。すべては光と影なのだ――の意味を考えながら、ふと獅子座の秘密に触れたような気がして、この当たり前すぎるほど当たり前な言葉を今回は選んでみた。

 

 なるほど、そうだった。自明の事実だが、獅子座は蟹座の次のサインだった。よく講座でも伝えている通り、太陽を獅子座に持つ多くの人たちが蟹座から出ることをためらい、なかなか自分の殻から出られないままでいる。その理由として、蟹座に対する強い執着――つまり、陰、暗さ、記憶、潜在的欲求、夢、メランコリー、母的なもの、故郷、伝統という、個人のもっとも深く、もっともデリケートな想いに対する扱いがうまくできないままでいるからだ。

 そう考えれば、獅子座を代表する人たちの創造の源泉には、たしかに蟹座=月的なものがみずみずしくあふれているように思える。陰、闇、暗さの中にある普遍的な恐怖や欲望、それを補完するように存在する陽、光、明るさの中にある普遍的な善や正義、それら真っ向から対立する二つの局面をひとつの人格=作品の中に統合させること、闇の中に光を見つける作業、暗さから明るさへ人々と連れ出す行為、それが彼らの仕事の一つなのかもしれない。

 

 そうなると谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」などは、日本家屋の持つ陰翳といった蟹座=月の持つ魅力に光を当て、それを現代へと統合し、語り継ぐ作業だったということがわかる。

 

私は、数寄を凝らした日本座敷の床の間を見る毎に、いかに日本人が陰翳の秘密を理解し、光りと蔭との使い分けに巧妙であるかに感嘆する。なぜなら、そこにはこれと云う特別なしつらえがあるのではない。要するにただ清楚な木材と清楚な壁とを以て一つの凹んだ空間を仕切り、そこへ引き入れられた光線が凹みの此処彼処へ朦朧たる隈を生むようにする。にもかかわらず、われらは落懸のうしろや、花活の周囲や、違い棚の下などを填めている闇を眺めて、それが何でもない蔭であることを知りながらも、そこの空気だけがシーンと沈み切っているような、永劫不変の閑寂がその暗がりを領しているような感銘を受ける。われらの祖先の天才は、虚無の空間を任意に遮蔽して自ら生ずる陰翳の世界に、いかなる壁画や装飾にも優る幽玄味を持たせたのである。

 

 彼らは、暗さを暗さゆえに愛してやまないのだ。

 だから、獅子座の心理学者ユングは心に深くもぐり、画家のミュシャは寓意や象徴を用いてスラブ民族の復興を願い、そしてヒッチコックはサスペンス映画を利用し、潜在意識の核心をえぐるべく、誰の中にも存在する暗い欲望や妄執を美しく繊細にあぶり出した。みんな一様にその活動の源泉に強く暗い想いを持っているように見える。

 

 ヒッチコックの映画には、どの作品にも罪の意識に苦しむ人物、または他人に言えない秘密を持つ人物が登場する。つまり、ヒッチコックは映画を通して、ユングが言う「無意識の中にあるものはすべて、外界へ向かって現れることを欲している」を行い、そして外に表現することによって、ヒッチコックの言う「映画の力は、大衆のエモーションを生み出すことにある」を実現したのである。

 つまり、獅子座の重要な目標のひとつは、まず恐れずに自分の中にある「陰」を見つめることである。外に出たがっているだろう自分にとっての「陰」を抑え込まず、それを自分の表現の力に変換していくことだ。谷崎潤一郎の「鍵」の夫婦の日記のように、見られることを前提に、むしろ逆に他者の存在を利用し、自分の中の「陰」を解放していくことだ。

 

 2021年獅子座期は、自分の中にある「陰」のものに丁寧に向き合って過ごしてみたい。自分のデリケートな部分に触れるもの、大切だけれどうまく扱えないものに、しっかりとリーチしてみたい。「外界へ向かって現れることを欲している」かもしれないものを、どんなかたちでもいいから表に出してみたい。もしかしたら、ヒッチコックが「映画の力は、大衆のエモーションを生み出すところにある」と言うように、またヒッチコックの仕事が後世に続く人たちの創造的エモーションをかき立てたように、自分の「陰=大切なもの」が誰かの「陽=未来の可能性」へと続くこともあるかもしれない。

 今日からの一ヶ月は、太陽=未来の価値の循環を信じ、自分の「陰」を探し当ててみよう。

 

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