2021 天秤座の言葉 森本あんり┃心の中の思想と外面に現れる礼儀正しさはずれていていい~不寛容論

心理占星術家nicoが選んだ今月の言葉は…

 

 

 多くの日本人は、寛容は美徳だと思っているだろうし、自分のことをどちらかと言えば寛容な人間だと思っているだろう。だがそれは、あくまでも一般論であり、問題が他人事の時だけである。寛容の問いが自分自身に及び、深刻な利害が身の回りにひた寄せてくると、ようやくその不愉快さに思い至るようになる。

 

 ただ、そういう時にも、いきなり自分が不寛容な人間だとは認めたくないものである。すると残る選択肢は「相手に非があるから仕方ない」という正当化である。昨今の社会問題では、何かと窮屈な正義をふりかざす人が目立つようになったが、それは結局のところ、自分が不寛容だという事実に目をつぶりたいからかもしれない。普段なら、本来なら、自分はもっと心の寛い大らかな人間なのだが、相手があまりにひどいから、やむなく社会正義のために批判するのだ、という自己解釈である。

 

 もしそこで、「自分は実のところ案外不寛容な人間だ」ということを受け入れたら、どうだろうか。「自分の意見や好みに合わない人には、どうしても否定的な評価をしてしまう。そのことを表面に出さないように努めはするが、心の中のそういう想いは止められない」自分の内心をそう顧みている人に、「いや、それが寛容の本義です」と伝えたらどうだろうか。

著書『不寛容論』より

乙女座の言葉

森本あんり

1956年1019日神奈川県生まれ、神学者。天秤座に太陽、水星、海王星を持つ。

国際基督教大学、東京神学大学大学院を経て、プリンストン神学大学院やバークレー連合神学大学院で客員教授を務める。専門は神学、宗教学。主な著書に「反知性主義」「異端の時代」などがある。

 

 

 

 

 私の講義ではおなじみの話になるが、7番目のサイン天秤座を説明する際、7番目のタロットカードの「戦車」を用いてこんな話をする。

 

 

 「7」という数は素数である。素数とは、新しい意識の始まりということ。つまり、天秤座の段階でさらなる知的成長を目指し、これまでとは違う新しい場、体験、関係性へと戦車を走らせていくことになる。しかしその際、かならず自分の内部で大きな揺れを体験することになる。絵柄にあるような黒と白のバランス、自分自身の内的バランスを取るのが実はとても難しいのだ。それが天秤座体験であると。

 

 いざ外界へと目を向けてみると、異なる価値観を持つ人々の存在が意識される。人と自分の考えが違うという疎外感。どうも自分の正義ばかりが正しいわけではなさそうだぞという現実。匿名で自分の正義を叫ぶのか、自分の正義を完全に引っ込めるのか、恐る恐る自分を出してみるか。親しい人たちと結びつくためには、自分の主張は引っ込めたほうが無難なのではないか。うまく、人に合わせたほうが生きやすいのではないか。その結果、自分は実際、何を大切にしているのかよくわからなくなってしまった、または自分とは違う価値観を持つ人たちに対し、ついつい否定的な感情をぶつけてしまったり…

 

 多様性社会の実現を求めながらも、ふたを開けてみればコロナ禍の影響もあり、自分とは異なる信念の人とのつながりが減ってしまっている。SNSで自分と似た世界観に共鳴する人とだけつながり、そうではない人とのかかわりを断つ、そんな閉鎖的な日々を送ってしまって人もいるかもしれない。

 

 そのような時代背景の中でこの本は書かれた。森本あんりの言葉はこう続く。

 

  異なる思想や信念のぶつかり合いが常態化した現代では、各人の自由が最大限に尊重される「王国」などというお題目は、少しのんきすぎて、鈍感にすら見えてくる。「真心をもって話し合えば、多少の違いがあっても、お互い仲良くやっていけるはずだ」という思い込みは、ひとたび外界の荒波が押し寄せると、いきなり剥き出しの排外主義に転嫁する危険がある。こういう寛容論は、本人も気づかぬうちに、「相手を是認せよ」という感情の動員を強いてしまうからである。

著書『不寛容論』より

 

 

 占星術において、「分断」を風エレメントの象徴だと解釈されることがあるが、私は実際、そうではないと考えている。森本氏が言っているように、真心をもってとか、「是認せよ」という感情の動員というのは、風エレメントが十分に体験されていない水エレメントの特徴である。同じことを良しとする連帯感、または同調圧力とも言うのだろうか。

 

 個人が自分と他者の「違い」をはっきりと認識し、独立した意識を成長していないと、関係性に対する甘えやなれ合いの態度が、ある日突然に「いきなり剥き出しの排外主義に転嫁する危険がある」ということになる。「もうあなたとは友達ではない」という断絶がいきなりやってくることになるのだ。

 では、天秤座の独立した意識を持つにはどうしたらいいのだろうか。どうしたら、同じか、同じでないかの間を橋渡しすることができるのだろうか。

 

 森本氏は著書『不寛容論』の中で、政教分離原則(政治と宗教は分離されるべきであるという考え方)の著名な提案者である神学者ロジャー・ウィリアムズの態度をこう取り上げている。

 

自分にとって自分の信仰はかけがえのない尊いものだから、他者にとってもその人の信仰は大切であるに違いない、というものだった

著書『不寛容論』より

 

 これこそが、まさに天秤座の背景にある重要なテーマ――番目の天秤座の支配星である金星のもとになっている、番目のサイン牡牛座の金星の意識を育てること(私は、金星は天秤座からではなく、金星が最初に支配している牡牛座での体験が重要になるという考え方をしている)。またはタロットカードの番目「女教皇」の膝の上にある「TORA(ユダヤ教の経典)」を手にすること。

 つまり天秤座体験とは、まず「2」という視点を自分の中に育て、まずは他者と私との分離「あなたと私は違う」を体験すること、そして自分にとって大切な揺るぎなき信念、「自分にとって自分の信仰はかけがえのない尊いもの」を手にすること、それができれば森本氏の言う「寛容に必ず内包されている不寛容」を知り、自分の内面のバランスを取ることができるようになるのだ。

 

 それがタロットカードの戦車の黒いスフィンクスの存在である。

 

 私の中の「不寛容」との折り合いのつけ方とは、森本氏の言う「自分と相いれない思想を持つ人を前にしたとき、自分の心の中をその人に会わせる必要はない。自分の中に密かな差別の思いがあるのは仕方ないこと。私の考える不寛容論では、心の中の思想と外面に現れる礼儀正しさはずれていていい。それが寛容に必ず内包されている不寛容」ということになる。

 

 2021年の天秤座期は、まず「2」の女教皇のTORAを意識してみよう。あなたをあなたたらしめている大切なものを持っているだろうか。時代や環境が変わっても、これだけは変わらないというものを持ち、自分を心地よく安定させることができているだろうか。そして、自分にとってかけがえのない大切なものは、人から踏み込まれずしっかりと守ることができているだろうか。簡単に手放したりはしていないだろうか。そのうえで、いや、だからこそ罪悪感を覚えることなく「自分は実のところ案外不寛容な人間だ」と叫ぶことができるのだ。自分を不自然に偽ることがなければ、自分の戦車は適切な道へ向けて気持ちよく走ってくれるだろうし、そしてきっと人の戦車が進むことに目くじらを立てることもなくなるだろう。

 

 まずは、自分は自分、人は人の意識をしっかりと育てておく。

 外界体験は、まずそこから始まるのだ。