[2016.03.19記事の再掲載]
2015年7月14日、11時47分。冥王星探査機ニューホライズンは、冥王星に接近通過し、冥王星と衛星カロンを撮影した。そのとき送られてきた映像がこの写真だ。
「冥王星にハートが!」と話題になっていたから、見た人も多いかもしれない。
えっ? このかわいらしい写真が冥王星なの? 冥府の神の名を与えられ、「死と再生」とか「破壊的」とか言われている、あの冥王星? ハート以外にも、くじらがいる! ディズニーのキャラ・プルートが見えた! と次々にいじられ、太陽系最深部の闇の帝王の迫力は、すっかり影をひそめてしまった。
こうなると、もう冥王星に対し、圧力、極限状態、地下組織というような不穏で恐ろしげな象徴をあてはめることはできない気がする。だって、ほら、遊ばれちゃっているもん、完全に。
世界中の人が、こういったかわいらしい象徴を冥王星に見出した時点で、間違いなく冥王星の意味合いも変わるはずなのだ。それが時代の最先端の宇宙論としての占星術のあり方だ。
実は、私は10年前の時点で、つまり、冥王星が準惑星として発表された2006年の時点で、冥王星のはったり感というか、えせ感というか、そういった人間臭さを嗅ぎ取っていた。
だって、迫力満点の名前をもらって、どう考えても大きそうだし、強そうだし、かっこいいし。それが、なんだろう、月より小さいって?! しかも、冥王星の衛星カロンとの二重惑星説も浮上し、天文の分野では「惑星のできそこない」まで言われているとは…なんだよ! ガッカリだよ! お前はその程度なのかよ!
講座や勉強会など、あらゆるところで冥王星の話をする際、私は冥王星=「シークレットブーツ」と説明している。近づいてみたら、ちっちゃい! という拍子抜けの気分(先日も講座で、某スーパーアイドルのシークレットブーツの話で盛り上がったね)を現わしているのだ。
だがしかし、この哀愁、この人間臭さ。ここに冥王星の魅力が詰まっているのではないだろうか。誰の中にもある、無力に対する恐れや不安。モテたい、有名になりたいといった世俗的欲望。そういったものを見せないようにと、必死にかっこつけるその姿。なんとも味わい深いじゃないの。
実際、この冥王星にまつわる一連のエピソード――発見から、準惑星への降格、ニューホライズンの最接近――が、私には冥王星の象徴そのものに思えてならない。
冥王星の発見は、1930年2月18日 クライド・トンボーによるものになっているが、実はそれには伏線がある。パーシヴァル・ローウェルという天文学者(火星大好きの蠍座生まれ)が惑星Xなるものの存在を予測し、1915年にアメリカ科学アカデミーで発表することにしたが、結局、発見が叶わず、「恥をさらした」と落胆し、それから一年あまりで人生を去ったというエピソードがある。
なんか、この欲望、このジレンマ。本当に欲しいものこそ手に入らないという、人生のアイロニー。なんとも冥王星らしいエピソードじゃないか?
または、プルートという名前の由来。ヴェネティア・バーニーという天文学に夢中の11歳の女の子が名付け主だけれど、お祖父さんが孫娘かわいさにオックスフォード大学教授の友人に電話で頼んだという。縁故というか、なんとも8ハウス的なエネルギーの流れを感じるエピソード、これもとても冥王星らしい。
二重惑星の話もそうだ。
通常、衛星は母惑星に比べて、その直径は1/10にとどまると言われている。比較的大きな地球の衛星・月の場合でも地球の1/4だけれど、冥王星とカロンの関係はなんと1/2以上もある。また、共通重心が冥王星とカロンの間の宇宙空間にあるため、結果、冥王星とカロンは二重惑星と考えていいのでは、という見解が発表された。
ここから、「人は一人では生きていけない。だから、お互い、持ちつ持たれつ。人という字は…」という冥王星の共存、共生のテーマが浮かび上がる。自分と人という鏡像関係によって自己を成長させる蠍座のイメージもここに重なる。
だが実際は、二重惑星の定義は曖昧のまま、既知の太陽系天体の中で二重惑星の候補となり得るのは、地球と月のペア、及び冥王星とその衛星カロンのペアだけだと言われている。ここから、月と冥王星の相似も考えられる。
準惑星になってからも、いやむしろ、準惑星になったからこそ、冥王星のその悲しみや可笑しみといった魅力が突出してきたように感じる。天文ファン、占星術ファンを引き付けてやまないのは、そんな人間臭さなのではないか?
2016年1月21日、米カリフォルニア工科大学の研究チームが第9番目の惑星なるものを発見した。冥王星と同じくらいの大きさの準惑星エリスと違い、こちらは地球の約10倍、冥王星の約5千倍もの質量があり、太陽周回軌道を1~2万年かけて一周していると言われている。
まだ、名もなき天体であるが、これでいよいよ冥王星の立場が危うくなるだろう。発見のニュースが飛び込んできてからというもの、はったり屋の冥王星がその存在にビクビクしているのがわかる。「立場が脅かされるかもしれない」という恐怖、その象徴を冥王星に見ることが多い。
果たして、第9番目の惑星は今後どうなっていくのだろうか。その時、冥王星はどんなサバイバルの技を見せてくれるだろうか。これからも冥王星に目が離せない。