蟹は甲羅に似せて穴を掘る — 村上さなえ×nico所長 占い師になる! VOL.2

「せっかく桜が見頃だから、今回はお花見かにこーで行きますか」ということで、代々木の国立オリンピック記念青少年総合センターで待ち合わせることに。ただでさえゆるーいふたりの対談。果たしてどうなることやら。

ツールとしてのソフトウェア

nico(以下N): かにこー2回目が始まりました。どうぞよろしくお願いします。

村上さなえ(以下S): よろしくお願いします!

N: 第1回目のかにこーが好評をいただきましたので、気持ちを新たに張り切っていきたいと思います。今日は桜を見ながらということで、国立オリンピック記念青少年総合センターを指定してくれたのですが、私、ここ初めて来ました。桜、凄いですねえ。さなえさんはよく来るのですか?

S: ここはニコちゃんの家からも私の家からも近いし、桜に関しては、めっちゃ穴場で。そして今日は、ほぼ満開に近いという絶好のお花見日和。

N: 代々木公園と隣接しているのですね。

S: うん。でも、代々木公園より、うんと静か。私は原稿チェックなど、家以外の場所で仕事したいときは、ここをよく使っているのよ。ということで、さて、今日は何からいきましょうか。

N: 今日はですね、自分たちがやっている現場のテクニックをご紹介してみようかなと。そのテクニックを手に入れるまで、どのような紆余曲折なり、ドラマなりがあったのか。そんなことをお話しできたらと思っています。

S: なるほど。私たちの間ではたまに話題にでるけど、最初に話をしたいのは、占星術ソフトについて。15年くらい前かな、初めて講座を持ったんだけど、結局、参加者の誰も占い師として、というか占いを職業とするみたいな感じでは育たなかったということがあるのよ。というのも、生徒さんたちは、占星術の基礎知識は身についたのだけれど、参加者誰もが、占星術のソフトウェアを使いこなすことができなかったのよ。私、90年代半ばからの筋金入りのMacユーザーなので、Windowsユーザーのソフトウェアのフォローがうまくできず。それが、私にとって、失敗というか、後悔の一つなんだけど。

S:占星術のソフトウェアをガンガン使いこなすことが、占星術師の基本中の基本、そこのフォローが大事だったのに、申し訳なかったな、と。今、いろいろなサイトができていて、無料で二重円、三重円もできるんだけど、それはやっぱりソフトウェアを使いこなしているのとは違ったりするので、そこの克服って、何が何でもその環境を整えるっていうのは、占い師になるならないではなく、占星術を学ぶ上でも重要じゃないかなと思うわけ。それが一番基本なんじゃないかなって、当時の反省として、思っているんだよね。

N: そうですね。料理でもスポーツでも、どのような分野でもそうだと思うのですが、ツールを使いこなさないと何も始まらないですよね。いつまでたっても受け身でしか学べないというか、どんなに学んでも自分のものにすることができないですよね。

S: 今は、ネットでいろんな情報を得られるけど、プリントアウトしたホロスコープに、自分で書き込むこと、そしてそれを習慣づけることは、とても大事な作業だと思うんだよね。

村上さなえによる鑑定前の準備のために書き込みされたチャート

着地のイメージとは

S: nicoちゃんは、鑑定前の準備にどれくらい時間をかけているの? ティル先生から、「僕くらいになると、だいぶ早くできるから20分しかかからないんだよ」というのを聞いたとき、えー、そうなの? ティル先生もそんなに時間をかけてるんだって、驚いて。一方で、時々いるじゃない? まったく準備をしないとかいう人。わざと準備をしないというタイプも中にはいるけど。

N: いますね。ファースト・インプレッションを大切にするとか、占いに来るお客さんは話を聞いてほしいだけの人が多いから準備は必要ないとか、そういうのも占い師の個性が出るところなのかもしれませんね。

S: そうだよね。

N:私は、昔ほどは準備に時間をかけなくなりました。プリントアウトして、逆行天体を確認して、アングルのディスポジターを追いかけて、主要天体のミッドポイントを見てという感じです。私の鑑定はコンサルテーション・チャートがかなりの比重を占めているので、鑑定の着地のイメージはコンサルテーション・チャートから導いています。準備段階である程度会話の道筋は作っておくのですが、それでも現場は相手あってのことなので、現場でチャートを育てるみたいに感じることはよくあります。
※コンサルテーション・チャート:クライアントが鑑定に訪れたときを切り取ってチャートにしたもの。クライアントが何に悩み、何を求め、どう進むべきかをチャートから読み取り、診断していく。

S: ホロスコープをプリントアウトした準備段階で、ホロスコープからの印象をメモしておくわけだけど、実際には、それとは全然関係ないところから、思いがけない話になっていくってことはあるよね。

N: 相手の情報に合わせて拾う象徴を変えていくとかはありますね。さなえさんは、コンサルテーションのスタート時に、どのくらい情報を引き出したりしますか。

S: 初めてのクライアントさんには、何で占星術を受けてみようかと思ったのか、そして、今日のテーマは何なのか、とまず尋ねてみる。その流れで、仕事は何をしているか、あと私の場合は、口コミでいらっしゃってるクライアントが多いので、紹介者の○○さんとはどのようなお知り合いなのですかとは聞くかな。あとは家族構成を聞いて。そのあと、ホロスコープの説明をしながら、だいたい30分くらいかけて、パーソナルな部分をまず知って、ということをやるかな。

現場ではどの技術を使い、どう流れを組み立てるか

N: さなえさんの鑑定時間は90分でしたっけ。

S: そう。nicoちゃんは、どんな感じで、コンサルテーションをスタートするの?

N: 私も年齢、仕事はあらかじめ聞くことが多いです。年齢は出生データを送ってもらった時点でわかるわけですが、あえて聞く。クライアント自身の言葉で社会的アイデンティティを語ってもらうことで、その人が今の自己像をどうとらえているのがわかるので。あとは、コンサルテーション・チャートから、「今、こんなことをテーマにしているようですが、どうですか?」と先に水を向けることもあったりします。「そうなんです!」ということになれば、お互い話のきっかけを作りやすいということで。まずは、クライアントの“今”の状況をコンサルテーション・チャートで把握し、核心の部分はネイタル・チャートで診断し、で、今後のスケジューリングに入るという流れです。

S: ネイタル・チャートを確認するのは、私にとっては儀式的に重要なものなので、まずはそこを読んで、それからじゃあ、時期はどうしようかというところは、ネイタル・チャートを読んだ後、一緒に考えていくという。

N: 今のやり方に至るまではどのくらいかかったのですか? 試行錯誤しながらでしたか?

S: 試行錯誤はないけど、ホロスコープの説明が長すぎたというのがあって、12サインの説明が楽しすぎてっていうのがあったので、それを調整したというのはあるのと、最近は、ニコ所長のやり方を参考に、コンサルテーション・チャートを使って状況把握をしてみるということもやってみたりしているし、鑑定をし始めた頃は、トランジットばかりを追いかけていたけど、だんだんセカンダリープログレスの月が大好きになったりというのがあって…。

N: 自分のブームみたいのがあるんですよね。

S: そう、そう、そう。セカンダリーの月がマイブームになると、それ以降、セカンダリーの月を読むのが習慣として残っていく。そうやって、なんだかんだ自分の中から出す刀みたいなもの、武器みたいなものが増えていくよね。「これもまだ伝えておきたいし」という星の特徴があると流れをこちらで作ることができたりするよね。だから、これから鑑定を始めるなら、いくつかメニューを持っておくといいよね。コンサルテーション・チャートもどれくらい読むか、読めるかはおいておいて、出すは出しておくというか。サビアンも読むことがなくても、いつでも読める状態にしておけば、寄り道から話を組み立てたり、本筋に近い寄り道がたくさんできるようになるということで、充実した1時間半になると思うのよね。

N: うんうん。

S: ネイタル・チャートとトランジットしか読めないというんじゃあね。90分はもたないよね。

N: そうですね。よく実践読み講座の時に生徒さんにお話しするのですが、ホロスコープが読めるようになるということは、目に入る情報が増えてくるというか、見逃さないポイントが増えてくるということだと思うんです。今まで気がつかなかったことがちゃんと情報として拾えるようになってくるという。それがプロになっていく歩みかなと。

S: うんうん、そうね。

N: なので、慣れてくると情報の差し引きができるようになってくる。トランジットをまったく読まないこともあるし、太陽と月にほとんど触れないこともある。セカンダリーについても触れたり触れなかったり、ソーラーアークに触れたり触れなかったり。その現場、現場にふさわしい効果的な技術を用いることが大事なんだと思うんですよね。たくさんの情報を手にすることができているからこそ、余裕をもって現場に臨めるようになるのかな。もちろん私も最初のうちは、少ない情報でがむしゃらにやっていたのだと思うんですけどね。

ホロスコープから時間の流れを考える

S: ある程度のテクニックを持っていないと、たとえば土星のサイクルで動いてそうな人には土星の観点から話をしたほうがよかったりするかもしれないし、私がなんでセカンダリーの月を好むかっていうと、27年半の周期で説明していくと、クライアントにとっても、私が提案する数年先のスケジュールも俯瞰でみることができるじゃない。クライアントが切羽詰まっていると、来年には答えを出さなくちゃとか、来年には出産したいとか。セカンダリーの月や土星が示す、7年とかの長い尺で人生を見通すのは、大事だと思うのよね。

N: そうですよね。どんな占術もそうなのかもしれないですけど、12年とか7年とか大局を見ることができるものと、3か月という時間の幅で見ることができるもの、スケジュールを考えるのにもいくつかの感覚を持っておくことが大事かもしれないですね。

S: 若い子はスパン短いし、年を取れば、1年だってあっという間というのがあるから、その時計みたいなものを客観的に提示して、一緒にスピードを見ていけるというのは大事だよね。若い子を思いを留まらせるためにも。(笑)

N: 若い子に、じゃあ7年後のことを見てみましょうとはならないですものね。

S: そうだよね。じゃあ、7年後はそうなるにして、そこまでの行程というか、クライアントがワクワクするようなプラン出しができるというのは占い師の腕の見せ所というか。星の道筋を使って、どうのせるかということなので。うまいこと見つけたときって本当に気持ちいいもんね。ほんと脳に穴が空いて、天に繋がったようにスカッとする瞬間が度々ある。クライアントも自分も鳥肌が立つような。この星とこの星が、ああ、こうつながるんだねっていうときって、クライアントと自分、そして間に置かれたホロスコープ、この3つの関係に高揚するというか。そういうコンサルテーションができると、やっぱりやりがいがあるというか、お互い幸せっていう感じになるし。コンサルテーションってやっぱり楽しいってことになるわけで。

N: そうですね。「2年前の努力が今のここにつながっているんですね、これまでの努力は無駄ではなかったんですね、これからこんなふうに進んでいけばいいんですね、私のやってきたことは間違っていかなったんですね」と時間の流れを見ることで自分の人生の肯定にもなる。未来の希望にもなる。そういったことをお手伝いできたときは深い喜びを感じますね。

S: そしてホロスコープって、子供時代も振り返ることができるじゃない。子供時代はあんなにいきいきしていたのに、なんで今はそうじゃないんだろう。それがホロスコープからディスクライブできるわけで、それがホロスコープの面白さでもあったりするよね。

N: そうですね。ホロスコープそのものに何層もの時間の層があるんですよね。

S: いいね、その表現、「ホロスコープの時間の層」。たった一枚の紙だけど、そこに書き込まれてる情報は、本当にいっぱいあるよね。それを拾うためにも、まあ、準備ですね。ノエル・ティル先生のやり方と同じように、チャートの横に情報を書き出しているだけなんだけど、その習慣を続けていると、どこか強調されているのかっていうのがわかってくるし、学び始めた人が苦労するのって、ポイントを絞れないこと。全部読んじゃうと、全部ばらばらになって収拾つかなくなっちゃうけど、習慣化していくと、あれ、こっちでも11ハウスが強調されているなとかがわかってくるというか、絞り方が慣れてくるというか、ああいうのってすごい大事だもんね。ばっと散らかっているものの中から、繰り返されているっぽいものを拾えるというのはやっぱり準備というか。

N: ノエル・ティルのvocationsの分析手順あるじゃないですか。あれくらいの情報量を整理することを訓練すると、ホロスコープはだいぶ早く読めるようになりますね。情報処理能力がつきます。ホロスコープをパッと見ただけで、頭が勝手に処理し始めるというか。私だけかもしれないですが。情報処理の訓練、習慣ですね。簡単に身につくものではないですけどね。

S: たまに、タロットや易を半年勉強しただけで、いきなりブースに出ちゃうみたいな話を聞くこともあるんだけど、西洋占星術は無理だよね。

N: そうですねー。半年は無理ですねー。本当はタロットとかも、学びとしてはもう少し時間をかけたほうがもっと面白い。タロットも占星術も時間をかけたほうが学問としては深く学べて面白いとは思うんですけどね。

S: もちろん、もちろん。

N: タロットは卜術ですから、その時現れた象徴を読むものであることに対し、占星術は命術なので、実存の人を読むわけですから、当たるも八卦というわけにはいかない。生きた人を目の前にして、そうとんちんかんなことも言えない。人の数だけ読みこなしていないと、そう人それぞれに読み分けるという技術は身につかないわけですよね。だから、ホロスコープを読むのが一番難しいということですね。

桜を前にすると言葉でないね(笑)

N: しかし…。すごい時間をかけた割には、今日はまだたいして話してないですね。桜がきれいすぎて、ぼーっと見入っちゃって。ロケはだめですね。

S: うん。いかんね。なんか話さなくても成立しちゃうね。自然は偉大だ。そういや、なんか占いに関係ないかもしれないけど、私は昔、男の人と絡むほうが楽で、女友だちが少なかった。今は逆で、女の人と一緒にいるほうが楽しいっていうか。

N: あー、わかります。私もそうかも。それはどうしてなんだろう。

S: なんでだろうね。占いをし始めたことに関係あるのかな。今度、入浴中のテーマにしてみよう。(笑)

N: 私が占星術を始めたとき、惑星は男性のシンボルであるものが多いということが気になっていて、太陽は夫の象徴とか、えっ!みたいな。太陽系の唯一無二のもの扱っているのに、夫の象徴ですまされちゃうのーって驚いて。火星は、好きな男性のタイプとか。いやいや、それだけかよ!みたいな。反対に、月とか金星とか、いかにもわかりやすいソフトな象徴を押し付けられている気がして。だから、小惑星は女性を示すものが多いわけですが。こんなところまで性イメージがはびこっていて、いやいや女性も太陽を使ってもいいし、火星で頑張ってもいいしって、むしろ女性にこそ太陽や火星をやってほしい!ってむしょうにおもったわけなんです。女性がホロスコープ全体を使うというのはどういうことなのかなあって考えていたら、気がついたらまわりが女の人ばっかりになっていたという。

S: そうだねえ。……、なんか、ぼーっとしちゃうね。

N: 私も、すっかり桜に癒されちゃってます。すいません。

S: 桜が気持ちいいのは、いいことなんだけど、対談にはちっともよくないね。(笑)ニコちゃんのコンサルテーションの十八番ってあるの?

N: 私は、アドラー心理学の「今の問題を解決すれば、過去も未来も変えられる」という考えを指針にしているので、“今”とどう向き合うか、“今”をどう受容し、利用し、楽しむかみたいなアプローチが好きでやっているのですが、だから、ネイタル・チャートだけじゃなく、トランジットを利用する、天体のサイクルを利用することも積極的に取り入れています。多分、私はトランジット読みが一番得意分野だと思っているのですが、自分を知る視点と、自分から離れる視点の両方を持つということでしょうか。今という時代にどう個人がシンクロしていくかという視点、その人を活かしている状況、環境とどう調和するか、そんな視点を大切にしながら、その人自身の生きやすさを見つけていくというか。占星術の面白さって、今、運行しているエネルギーをどう受け止めることなのかなというのが、私が好きでやっているスタイルかな。

S: 具体的な話をしっかりしていかないとね。現場はね。

N: そうですね。今いる環境がどんな状況なのかをコンサルテーション・チャートで、今のタイミングはどうなのかをトランジットで、そして自分の意志やもともと持っている力とはどのようなものなのかをネイタルチャートで、その三つ巴がうまく調和するような生き方を目指すことをサポートする、そんな感じでやっています。タロットカードのケルト十字もそうなのですが、意思と時間軸と環境、この3つを知ることが生きやすさのコツかなと。

実は、私はホロスコープから個人を解放したいという意識もあって、古典ではハウスのことを「とらわれた魂」と呼んでいたわけで、だからホロスコープから離れて、もっと自由に生きてもいいんじゃないかって思うこともあるのです。だから、天体の使い方も積極的に提案していきたいと思っています。土星が抜けるまではじっとしているじゃなくて。

S: そうね。自分が土星年齢になれば、土星は何にも怖くない!(笑)その感覚を若い頃から持てたら、最高だよね。10天体が、12星座を余すところなく体験し尽くす、それが、私にとって「地球人上がり!」のイメージ。やばい、桜見ながら話すと、スピっぽくなっちゃうね。(笑)

村上さなえ 占星家
東京生まれ。魚座の太陽・牡牛座の月。
女性誌、若者向け月刊誌や、PR誌の編集者としてキャリアを積んだ後、1998年より、占星家としての活動を開始する。
未来予測ではなく、自己再発見をテーマにしたコンサルテーションやセミナーが特徴。クライアントには、芸能人やクリエーターも多い。本の出版、雑誌、WEB等での執筆、セミナー、星座別ファッション提案など、活動は多岐にわたる。