#1 宇多田ヒカルファミリーに見る親子のアスペクト、180度の補完関係とは

「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」
心理学者アルフレッド・アドラー博士の言葉にあるように、心理占星術のカウンセリング現場においてももっとも多く寄せられるお悩みのひとつが「対人関係」に類するものです。

職場、カップル、夫婦、親子、嫁姑など…
どのような関係であっても、ホロスープという道具を用いることで、人間同士の間に働いている心理的な力学を浮かび上がらせることができるのです。それは、自分/相手の在り方を第三者的な視点で捉えるひとつのヒントを手に入れることに他なりません。

わたしという主観から離れて関係性を眺める–nicoの心理占星術ではデタッチする、ということを繰り返し提案しています。そうすることで、はじめてお互いの立場や態度に対する気付きと理解が生まれ、良好な関係を築くための調整方法や改善していくためのアプロ―チを導いていくことになります。

この連載では、人間関係の力学をホロスコープで紐解きながら、相互の関係を成長させ、豊かな人生をつくるための提案まで、心理占星術ならではの手法をご紹介していきます。

第1回は、宇多田ヒカルファミリーを取り上げ、家族間に働く関係性を紐解きながら、180度や90度のアスペクト、モダリティの補完がもたらす家族の成長プロセスを考えてみます。

まず前編では、親子の180度という配置から補完関係を、後半では、親子の90度から反発~自立のテーマを取り上げます。

サインの補完、180度の関係性とは

nicoの心理占星術では、牡羊座~魚座までの12サインをキーワードで捉えるのではなく、対向サイン、陰陽(2区分)、モダリティ(3区分)、エレメント(4区分)と分類し、その性質の違いを理解することで、ホロスコープの全体像を掴んでいきます。

180度の対向サイン「補完関係」については、こちらの動画をご覧ください。

nico  まず、何なんだろう。この家族のすごく密な180度感は…なかなかすごいなと思うところです。皆さんで一緒に読んでみたいと思いますが、今回、Hさんが取り上げたいと思った理由を教えてください。

Hさん  彼女の歌を聞くたびに、自分の中のどうにもやりきれない思いを消化するために、歌詞にしたり、曲に乗せているんだなっていうのをすごく感じています。お母さん(藤圭子さん)もいろいろ背負って生きてこられた人なので、すごいドラマがある親子だろうなということで今回、家族の関係性を考えてみたいと思いました。


nico  心揺さぶる歌詞を書く、お母さんも人生にいろいろあった中で複雑な思いを抱えている親子、ファミリーだったりするのかもしれません。

まず、宇多田ヒカルと両親は、太陽と水星が山羊座ー蟹座で180度・オポジションの関係になってるというのが一つ。(出生時間が分かりませんが)特にお父さんとは、太陽がばっちり28度同士ですから強い補完関係になっているかもしれない。それに加えて蟹座の性質が強い母、となった時にどういう影響を与え合っているのか。

そもそも補完関係とは、どういう関係になるのでしょうか。


Tさん  自分にないものを(相手で)補っているという感じ。先日、鑑定で見たご夫婦のチャートでも、本人は相手の性質に違和感、嫌がっているというか、あんまり心地良い感じはしてないんですけど、お互いに補い合って、自分にないものを取り入れようとして学び合っているような感じがすごくしました。


nico  学びあっているというのは、どういう感じなんでしょうね。おそらく、自分にないものを相手に補われてしまうと、内面化されているものが自分では引き出せないんですよね。例えば、先日記事に書いた Open AI 社のサム・アルトマンの事例を考えてみましょう。

彼は牡牛座を持っていて、自分が生み出していくAIという価値そのものに対してものすごく絶大な信頼を置いている。そしてそれは、他者が求めているものだと心の底から信じることもできている。つまり、(蠍座的な)人が求めているものを感じ取る能力が自分にはある、人が求めているものを作り出したいという、そこはかとない欲望もある。そうした対抗するサインの(牡牛座―蠍座)補完が成り立っていくイメージだと考えたとき、先ほどのご夫婦の場合はどうなりますか。


Tさん  自分が感覚や性質として持っていないところを、他者が持ってるもので何か刺激を与えてもらって、自分の中を掘り起こしていく感じなのかなって思いました。


nico  そうですよね、何か相手から与えられた補完の刺激を受けるだけで終わらず、その性質や感覚を自分の中で掘り起こし、使いこなしていけるようになっていくまでが、補完関係の最終目標であるといいなと思っているところなんです。

そういう視点で見たときに、親子関係というのは、子供が親から出発していくプロセスを少し考えに入れた方が多分このファミリーは良さそうだなと思います。

太陽の180度、対向のサインを作っていく

nico  まず、山羊座ー蟹座で考えてみましょう。お父さんは、まさにぴったり太陽が180。そして、お母さんは太陽・水星・金星とかなり宇多田ヒカルと対比されている。サインだけではなく、パースペクティブにおいても社会ー個人という違いがあります。

もしかしたら、宇多田ヒカルが子どもの頃は、自分の中にない蟹座の要素を親たちが勝手に補ってくれるから、自分自身は蟹座の要素を持たないで生きていくことができた、と思うんですよね。

先ほどのアルトマンの例で出したように、対向する2つのサインの要素を自分の中で出来るようになることが補完の目標だとしたら、宇多田ヒカルも自分の中にある蟹座の要素を引き出したい気持ちはあるんだけれど、ずっと自分は山羊座のことばっかりやっていて、親たちは蟹座のことをやってる。

それで完全に安定した補完関係になっていたら、お互い成長できないねっていう感じなんです。そうなると、家族の中で山羊座をやる人が宇多田ヒカル一人で、蟹座をやる親が二人いるってどういう感じになると思いますか。


Oさん  自分だけが社会に対して、ちゃんとしなきゃっていう感じで、親は個人個人で結構勝手にやってるような感じを受けますね。だから自分が逆にちゃんとしなきゃみたいな、感じになってくるんじゃないか。



nico  そうですよね、だからもしかしたら宇多田ヒカルがすごく苦しくて、それこそ一度芸能活動もやめて、自分を取り戻そうとした中に、蟹座の要素が入ってきてるかもしれない。子供を産むとか、家族を作るとか、何かこれまでとは全然違う心の動きを体験するとか。

そうしないと、勝手にわしゃわしゃっと夫婦喧嘩をして何度も結婚離婚を繰り返すとか、ものすごい情緒的に生きてる親たちを前にしていると、(自分の)心の動きを取り戻すのに、結構時間がかかったと思うんですよね。

冒頭でHさんが言っていた「情緒的な歌詞を書いていた」っていうのは、それこそ月のエスケープだったのかもしれないですけど、私生活とか物理的に心を動かすというのは結構時間がかかっただろうな、というイメージがあります。

目の前でいつもすったもんだと、何か感情を動かし続けている親がいて、山羊座をやらなきゃいけない自分がいる、そういう縮図がある。そうなると、親たちも宇多田ヒカルのおかげで、ある意味、社会的に安定した部分があるのかもしれない。宇多田ヒカルはいつも何か二人の繋ぎ役、自分がいることによって何か家族という社会構成体になっていくような感じを持っていたのではないか。

いつも情緒的な母親が目の前にいたという葛藤があった中、本当の意味で、彼女が私生活で物理的に月を解放させることが人生の目標であり、それはもしかしたら居場所をもつことかもしれません。ずっと自分の月が安心できる場所を探し続けている中で、内面化された蟹座が無意識に歌詞に出ていたところから、意識的な活動へとーー家族をもち母になるとか、例えば自分のレーベルを立ち上げるとかーー自分の心が動くような安心できる環境を自分で整えることで、はじめて安定してきたのだと思います。

つまり、自分の中で補完関係が出来上がったとき、人は非常に安心し、いろんな人たちとの交流が安定していくのではないか。だから、長くオポジションを補完させないままだと、どこかにあるかもしれない欲望を安定感がないまま求め続けていく、と宇多田ファミリーの180度を見つつ思うところです。

金星の180度、羨望と欲望で終わらせないために

nico  では、もうひとつ山羊座と蟹座の対比以外にも、母親との金星の対比も見て見ましょう。水瓶座ー獅子座の金星、180度の関係をこの親子はもっています。父親とは90度の配置にもなっていますね。

母親の金星・獅子座は、水瓶座の子どもから見たらどう映るのか。宇多田ヒカルの中にあるコンプレックスなのかな、とも見えますがどうでしょうか。


Tさん  わたしの父は金星が獅子座、わたしは水瓶座なんですけど、父は校長を務めていたので人前でスピ―チをしたり何かと目立つ活動をしていて、わたしたち家族はその姿をとても素晴らしいものだと捉えているところがありました。自分がそういうタイプではないことをコンプレックスに感じていましたし、きちんとしなくてはいけない、とずっと劣等感を感じていました。


nico  うん、まさにそうですね。宇多田ヒカルはある程度作られた土壌からのスタートだとしたら、母の藤圭子は本当に何もないところから自分の持ってる才能だけで、ドラマチックな人生を生き、とにかく実力一本でやってきた。美しく、能力も高く、そうした母親の持ってる様々な金星の要素に、子どもから見ても「この人の人生はすごい!」そんな圧倒される感覚があったでしょう。

しかも当然、周囲の人々がこの母親(の金星)はすごい、と評価している中、間近にいる宇多田ヒカルは金星ノーアスペクトの感性でそれを見つめている…これは、自分の金星がよくわからない、という空っぽ感が対比として出てくる。

こういう図式、すごい母親、Tさんの父のような存在に対して子どもが180度を持っていたら、それはやっぱりコンプレックスになるかもしれません。

金星同士の180度は奥深い自己存在にも関わる感じがしますね。180度からの刺激は、自分の価値に対して大きな不安になっていく。太陽の180度が、こうなりたいというイメージとして補完されるのに対し、金星はまさに内面化された欲望として刺激されていく感じがあります。

やはり相手の刺激を受けてから、一度自分を取り戻す、そこから最終的に手を組むという複雑な成長のプロセスがありそうです。でも相手の金星に「すごい!」と単に向き合ってしまうと、自分もこうなりたい!という憧れが強く引き出されたまま、自分本来の金星は奥底に引っ込んだままになってしまう。

180度を親子でもっているというのは意外に大変なことですが、自分の才能を見つけていくには、本来180度のアスペクトは良いもののはず。

きっと宇多田ヒカルの場合には、母親の持っている獅子座・金星を見て、自分自身を思い知り、そこから自分の個性を再び見出して、最終的に自分も獅子座の金星を手にしていく。そういう行ったり来たりを繰り返すプロセスがあったのではないかと思うのです。


いかがでしたでしょうか。

180度の関係、補完についての成長プロセスは、対向する相手からの刺激や羨望を受けるだけに終わらせず、その感性を自分の中で取り込み育てていくまでがひとつの流れとなることが分かりました。

次回は、親子関係に欠かせない反発~自立のテーマである90度の関係を見ていきながら、愛着から出発に向けた関係を解説します。