2024 蠍座の言葉~金滿里┃自らの本音を見つめ続け、他者との共存を手にする

      アポロンの竪琴

2024 蠍座~金満里
自らの本音を見つめ続け
他者との共存を手にする

著名人の言葉から12の太陽サインの生きざまを考えてきた「今月の言葉」がリニューアル!

自分の理想=太陽を生きるためには、何が必要なのだろう。

水星神ヘルメスが発明した太陽神アポロンの竪琴の神話をご存じですか。太陽の理想や意図は、水星という竪琴=言葉があるからこそ美しい音色を奏でることができるもの。太陽の言葉=アポロンの竪琴のメッセージに耳を澄ませてみてください。

あなたの生き方、働き方のヒントを受け取ることができるかもしれません。

心理占星術家nicoが選んだ今月の竪琴
蠍座・太陽の言葉は…

2024年6月の新装版

 だからこそ、ふだんからこの本音を見つめていかないと、人間として弱くなる、と思った。自分の中にも弱さや悪の部分がある。それに目をつぶって見ないふりをしていると、かえって知らず知らずのうちにその部分に引きずられてしまうのだ。

逆にそのぎりぎりの本音を見つめていくことで、何か問題に直面したとき、本当の極限状態に置かれたとき、自分の中の弱さに引きずられずに、本当の意味での自分の「選択」をすることができる。

そうでなければ、自分でそれと意識できないままに「自分がどうしたいのか」ということより、その場の強い力に流されることを優先し、結果的には自分の不本意に終わってしまう。

それでは後悔するだけだし、後々に悶々とした嫌な気分が残るだけだ。私は自分の気持ちに正直になろう、と思った。

金満里著『生きることのはじまり』より

蠍座の言葉

金 滿里(きむ・まんり)
1953年11月2日、大阪府生まれ。蠍座に太陽を持つ。

劇団「態変」主宰。芸術監督、作・演出家。舞踊家。
日本で活躍した韓国古典芸能家・金紅珠の末娘として生まれる。継承を期待されるが3歳でポリオ(小児マヒ)に発病、首から下が全身麻痺の重度身障者となる。4年間の入院治療、10年間の施設生活を経て、障碍者自立解放運動に参画。24時間介護の自立障碍者となる。1983年に『劇団態変』を旗揚げ。身体障がい者の障がいそのものを表現力に転じた身体表現芸術を創出してきた。劇団では芸術監督を務め、これまで一作を除く全作品の作・演出も手がける。自らのソロ公演を含めたほとんどの作品に出演。2001年に『金滿里身体芸術研究所』を創設し、指導も行なう。一児の母でもある。

 この言葉を2025年1月14日に開催した「火星ワークショップ蟹座・逆行期」の中で紹介した。火星の逆行について解説する際、「生きるため、生きのびるために、心の奥にあるやり残したことを取り戻す体験、蠍座火星的な体験」という表現が、つまり、金満里のこの言葉は、まさに火星逆行期にふさわしいと考えたからだ。

 無理解と悪条件の壁で覆われた閉鎖的な施設の中で、彼女はその日その日を生きのびてきた。その時の心情を綴ったのが上記の言葉である。それはどんな日々だったのか。彼女はこう書いている。

当時は、職員の機嫌しだいでその日の自分の処遇が変わるというのが現実であり、障碍が重度であればあるほど、職員の顔色を見るのが習い性になって行く生活であった。施設というのはけっして楽園ではありえず、結局は一般社会にある差別の縮図が、より生(なま)な形で当事者に突き付けられる場でしかないのだ。

 ここに書かれていることは、わたしが講座の中で説明する蠍座・火星・冥王星の成長プロセスに他ならない。生き残るために、わたしたちは誰しも、まずは「波長合わせ」からはじめる。世話をしてくれる人の顔色をうかがい、楽しくなくても笑顔をつくり、望みとは違っても相手のニーズに合わせる。そうすることで生存の可能性を担保する。少しでも生きやすい環境、状況、関係性をつくる努力をするのだ。

 もしかすると人によっては、蠍座・火星・冥王星的成長プロセスは、ここでおしまいということもあるだろう。自身の一生を周囲との波長合わせに捧げて終わることも往々にしてあるのだ。けれど、上手くいけば、成長のプロセスはこのように続くかもしれない。

私はそういう環境の中で、自分も含めて人間の心理というものを考えるようになった。それは、善も悪も別々に存在するのではなく、一人の人間の中に同時にあるのだ、ということだった。良い人と悪い人がいるのではなく、一人の中に両方が存在する。たまたまそのときにどちらかが出るだけで、絶対的に善い人なんていない。特に極限状態では、悪の部分が出る方が自然であり、本音なのだ。


 そのようにして蠍座・火星・冥王星的成長プロセスは、次の洞察をしはじめる。自分の生きづらさの原因を、人の醜さの、意地悪さの、現金さの、優しさの、温かさの原因をあーでもないこーでもないと模索しはじめるのだ。そうでもしない限り収まりがつかない。自分が置かれている状況も、自分のよくわからない怒りや不満の原因も、一体全体どうなっているのか、これにはどういう意味があるのか、納得いく答えを見つけないことには、こんな人生やっていけないではないか。

 そうやって、蠍座・火星・冥王星成長プロセスは、自分なりの真実にたどり着こうと探求を続けるのだ。彼女はこう続ける。

だからこそ、ふだんからこの本音を見つめていかないと、人間として弱くなる、と思った。自分の中にも弱さや悪の部分がある。それに目をつぶって見ないふりをしていると、かえって知らず知らずのうちにその部分に引きずられてしまうのだ。逆にそのギリギリの本音を見つめていくことで、何か問題に直面したとき、自分の中の弱さに引きずられずに、本当の意味での自分の「選択」をすることができる。

 彼女は少しずつ真実にたどり着く。そうだ、彼女がたどり着いた真実とは、他の誰でもない自分の中にある暗部に触れることだった。蠍座の探求とは、他者の中ではなく、自分の中を深く探り、そこにある暗さを発見すること。そこでようやく「誰かの」ではなく、自分のために必要な「選択」ができるようになることだった。8番目の蠍座の段階でようやくこのように言えるのだ。「わたしの中に答えがあった!」と。

 これこそ、まさに蠍座・火星・冥王星が求めるサバイバルの力と言えるのではないだろうか。


 星占い本には、よく蠍座について「他者と一体になることを求めるサイン」「変容のサイン」と書いてあるが、それには、上記までのプロセスを経ておく必要がある。

 自分を投げ打って相手に波長合わせをすることは、「他者と一体になる」ことではない。それではお互いの個性を尊重し合いながら、マーブルのように美しい模様を描くことはできず、ただ相手の色に染まるだけになってしまう。本当に対象と一体になるためには、まずは個として独立している必要がある。

 金満里はプロフィールにあるように、施設を出た後、「24時間介護の自立障碍者」という立場、彼女が手にできる最大限の「自立」を獲得するために闘いを挑み続けることになる。人から無謀だと言われようが、わがままだと言われようが、「自分の気持ちに正直になろう」と闘った。

 そうだ。人は誰でも皆、何らかの形で人に迷惑をかけているのだ。そして、人は誰でも皆、身勝手でわがままなのだ。人に目くじら立てたり、文句を言ったりする暇があったら、自分の「本音を見つめていく」ことだ。それしか、本当の意味で人と共存する方法はないのではないか。 

蠍座の太陽 ~アポロンの竪琴