2024 天秤座~羽生善治の言葉┃まったく違う可能性を手にするための「愛着を捨てる」勇気

      アポロンの竪琴

2024 天秤座~羽生善治
まったく違う可能性を手にするための
「愛着を捨てる」勇気

著名人の言葉から12の太陽サインの生きざまを考えてきた「今月の言葉」がリニューアル!

自分の理想=太陽を生きるためには、何が必要なのだろう。

水星神ヘルメスが発明した太陽神アポロンの竪琴の神話をご存じですか。太陽の理想や意図は、水星という竪琴=言葉があるからこそ美しい音色を奏でることができるもの。太陽の言葉=アポロンの竪琴のメッセージに耳を澄ませてみてください。

あなたの生き方、働き方のヒントを受け取ることができるかもしれません。

心理占星術家nicoが選んだ今月の竪琴
天秤座・太陽の言葉は…

 考えた指し手に愛着みたいなものがあるんですよ。愛着はあるけれども、それをやっぱり考えていく中で捨てていかなくてはいけないことがあるんです。そうした時間というのもありますよね。これだけ考えたんだからこの手が指したい、でもやっぱりその愛着を捨てていかなければいけないっていう。対局しているということはそういうことの繰り返しなのかもしれません。だから逆に言うと、長く考えてしまえばしまうほど最後の決断は鈍ります。

 だから、さっき、こっち側から見る、向こう側から見ると言いましたが、こっち側から見るというのは、たとえばそういう愛着を捨てなきゃいけないときには、あっち側から見ないと捨てられないのかもしれないですね。やっぱり自分自身のところで解決しようとすると、どうしてもジレンマに陥るでしょう。

羽生善治, 吉増剛造著『盤上の海、詩の宇宙 』より

天秤座の言葉

羽生 善治(はぶ・よしはる)
1970年9月27日、埼玉県生まれ。天秤座に太陽、天王星を持つ。

日本将棋連盟会長、棋士。
12歳の時、プロ棋士養成機関「奨励会」に入り、15歳で四段に昇段して史上3人目の中学生棋士に。19歳で初タイトルの竜王を獲得。当時タイトルが7つだった1996年に、25歳で七冠を制覇。2017年には永世竜王の資格を得て、47歳で史上初となる「永世七冠」を達成。タイトル獲得数は史上最多の99期。2018年「国民栄誉賞」受賞。小2から公文式学習をはじめ、奨励会に合格してからも中3まで学習を継続。著書に『羽生の頭脳』『挑戦する勇気』『決断力』『大局観』など多数。

 この言葉に出会った時、この心境がとてもよくわかると思った。羽生氏と同じ次元でものが見えているとは思ってはいないが、それでもよくわかると思った。「対局」とは言わないまでも、鑑定の現場では似たような心境に陥ることがあるし、ケーススタディのクラスでも生徒たちがそのような態度を手放せないでいるのも見ている。

 「この象徴の意味を確実に伝えたい」「この解釈についてクライアントを納得させたい」というような限りなく一方通行の思念に支配されて、それ以外の選択肢が見えなくなってしまうことも少なくはない。だから、鑑定の現場では「愛着を捨てなきゃいけないとき」があるということを常に肝に銘じなければならない。そんな話をよく講座内でしている。

 そうか。それが関係性=現場のパースペクティブを持つ活動サイン・風エレメント・天秤座の役割のひとつなのかと合点がいく。現場(活動サイン)で相互の関係を刺激的で実りあるもの(風エレメント)にするためには、自分自身に対するこだわりを手放さなくてはならないときがある。

 支配星を考えた場合もそういう解釈が可能ではないか。不動サイン・地エレメントの牡牛座・金星が愛着の実感や所有を象徴する段階だとしたら、天秤座・金星の段階では、一度自分のものになった「愛着を捨てる」というアクションが必要なのではないだろうか。そうしない限り、「自分自身のところで解決しようとすると、どうしてもジレンマに陥る」からだ。

 実際、こういった体験は少しも珍しいことではない。自分の考えに行き詰ったとき、家族や友人の何気ない一言、ネットで見かけたささやかな投稿などで打開策が見つかることはよくあることだ。だからこそ、わたしたちには他者の視点が必要で、だからわたしたちはつい人の考えに耳を傾けすぎてしまうのだろう。

 しかし、羽生氏の言葉はそういう場面を想定しているわけではない。自分にとって大事な局面――勝ちたい、相手より優位な立場に立ちたい、いい結果を残したい、いいところを見せたい――でこそ「愛着を捨てなくちゃいけないとき」だということだ。

 そのときが風エレメントの力の見せどころである。風エレメントは自分から自分を切り離す力、デタッチメントの力を持っている。これがいわゆる客観性ということになるだろうか。自分の中の創造性――アイデアや工夫の力――に頼るだけではなく、そこから自分を引き離し、相手の手の内――戦略や欲望――に視点を置き換えてみる。「こっち側」ではなく「向こう側」からものをみたときに、初めて自分がこだわっていた手がそれほど最善ではないかもしれないこと、もしかしたらまったく違う可能性を手にすることもできるかもしれないことが理解され、そしていよいよ「愛着が捨てられる」ようになるということだ。
 
 また、天秤座は活動サイン・火エレメント牡羊座と補完関係にあることから、活動、行動の原理の中には、常に「勇気」という精神が支えとなっていることは考慮しておいていいだろう。自分自身のチャレンジとして、まだ見ぬ世界を切り開いていくためにも、「愛着を捨てる」勇気が必要となるのだ。

 
 このような考え方にはある前提があるかもしれない。2023年12月15日のインタビューで、羽生氏はこのようなことを言っている。

棋士の成長・進化においては、戦法などの知識を「覚える」段階から、自ら戦術を「発見する」に至ることができるかどうかが、勝負の分かれ道になります。

ただ定跡を覚えるだけでなく、自分で新たな発見ができるようになるためには、まずは物理的な知識の量が必要です。新しい発見をするにも、その土台となる知識がなければできません。たくさんの知識があれば、応用したり、組み合わせたりして新しいアイデアを見つけられます。

そしてもう一つ、新しい発想を「発表していい」「実行していい」という気持ちがあるかどうかです。それがないと、そもそも新しいものは出てきません。

 風エレメントの性質を十分に発揮するためには、やはり「物理的な知識の量」は必須であり、また前出した「勇気」――新しい発想を「発表していい」「実行していい」という力の見せどころが必要になるということだ。

 これは2024年火星サイクル手帳にも引用した、天秤座に太陽を持つ思想家の内田樹の言葉「勇気と言うのは孤立を恐れないことだと思う。周りからの理解も共感も支援もないところから始めるために必要な資質である」という言葉も参考になるだろう。


 天秤座の力を得るためには、わたしたちはひとまず二つの勇気を持たなくてはならない。一つは自分自身から自分を切り離し「愛着を捨てる」勇気。もう一つは、「新しい発想を「発表していい」「実行していい」という気持ち」を持つ勇気だ。

 自分の考えに「愛着」を持ち続けても面白い世界は開けてこない、またただ日和見な態度で周囲を見渡しているだけでは新しいものは生み出せない。


 まず「勇気」、そして新たな世界に向けた「出発」、今期の天秤座期はそのようなことを意識してみるのはどうだろう。

天秤座の太陽 ~アポロンの竪琴