心理占星術でつながろう! ご当地紹介リレー VOL.8 長崎県五島列島、福江島

my local town

第8回 長崎県五島列島福江島

七味さや さん

九州の西の果ての離島から

居場所を求めて流れ着いたのは、知る人ぞ知る福江島。ここで生涯の目標を手にしたという七味さやさんが美しい風景と共に島の様子をお伝えします!

西の果ての離島から

九州最西端、長崎県。その中でも、最西端にある五島列島。そんな西の果ての五島列島の最西端にある、福江島という島に私は住んでいます。
この記事ではいつもそう呼んでいるように、福江島のことを「五島」と記述します(五島列島の住人は、島外の人にわかりやすいように五島列島をまとめて「五島」と呼ぶことが多いようです)。

沖縄の海がターコイズなら、五島の海はエメラルドブルー。抜群に透明度の高い海はもちろん、サバやアジなどの好漁場・五島灘で採れる海の幸も自慢な離島です。

日本の渚百選にも選ばれた観光名所、高浜海水浴場。この日は引き潮

日本の中でも知る人ぞ知る島だからでしょうか、それとも交通の便が良いとは言えないからでしょうか。

五島では、昨今のオーバーツーリズム的な混雑とはほぼ無縁です。特にオフシーズンの平日に来てもらえた際には、雄大な海、空、山といった大自然をほぼ貸切で堪能できることをお約束します(2024年現在)。

島のシンボル「鬼岳」の山頂から。碧い海とパッチワークのような畑を望む
個人的な推しスポット「さんさん富江キャンプ村」のビーチ。溶岩でできた黒い海岸に、黄緑色のあおさが生えています。

できることなら、このまま海外に見つからないでほしいな。ああでも、観光客が増えてくれた方が税収的にはいいのか。(とはいえ離島、交通の便が限られているのでそこまでひどい混雑にはならないはず…。)

鬼岳の中腹にて。寝転びながらこの景色が手に入る

見つからないでほしい、といえば。
五島列島はキリスト教が迫害されていた時代に、信仰の自由を求めて多くの教徒が移住してきた「隠れキリシタンの地」でもあります。信仰がバレないよう民家に隠れてひっそり教会が立っていたり、中に入らないと教会だとわからないような民家を模した教会があったりと、今でも島内にはその頃の名残がたくさん見られます。

観音像と聖母マリア像が一体化した「マリア観音」なる像があるかと思えば、お盆にはお墓で爆竹を鳴らしてご先祖さまを迎えたりと、中国由来を思わせる文化も根付いていたり。伝統的な念仏踊り「ちゃんここ」の藁の腰巻き衣装が、ポリネシアの伝統衣装と似ていたり。日本、西洋、東方アジア…多様な文化が土着の文化として、五島列島に融合・定着しているようです。

隠れ家を求める異教徒も異文化も、島に流れ着いたものをまるっと受け容れて個性にしてしまうなんて……これは日本全体にも通じることかもしれませんが、とりわけ五島列島の寛容さを感じずにはいられません。

集落の中に佇む、真っ白な建物が印象的な「水の浦教会」。

かくいう私も、北関東の片田舎にある故郷から九州の西の果てにあるこの離島に流れ着きました。

30の時に離婚して実家に戻ったのですが、コロナ禍で母親との折り合いがどうにもつかなくなってしまいます。二度と帰らぬつもりで故郷を飛び出し、知人を頼ってこの島へやってきました。

とりあえず3ヶ月。そう思っていたのに、この島に住んでもう5年目になります。


流れ着いた五島、流れ着いた漫画の仕事

半年の間に離婚と親との絶縁を経験した私は、それなりに疲弊した状態で五島に流れ着いたと思います。

私の太陽星座は蟹座。所属や安心を象徴するサインにも関わらず、幼少期から所属感や心理的な安心が得られにくい人生でした。そしてその極めつけが離婚、義絶か…と軽く絶望もしていた時期です。

当時は失ったものばかりに気を取られていたのですが、その代わりにこれからどこへでもいける、何でもやれるという自由が手に入りました。

五島に来た時はフリーランスとして広告漫画をメインに描いていました。実は漫画の仕事も、流れ着いたようなものです。一旦就職するもクリエイティブな仕事への未練を諦めきれなかった私は、20代は会社や職種を転々としながらやりたい方向・得意な方向に軌道修正を重ねます。色々やった中で一番手応えがあったのが広告漫画の仕事でした。

五島に流れ着いた日のフェリーのデッキから。海のど真ん中にいる、不思議な感覚。

五島に来てからは、広告漫画の仕事をしながら海に癒されたり、島の食や文化を堪能したり。海なし県育ちの私には毎日が知らないことだらけで楽しかったです。帰る家には安心もありました。島に来る前とは打って変わって、とても穏やかな環境に恵まれました。

穏やかな環境で広告漫画を描きながらも、いずれ広告ではなく自分の作品を描くことを仕事にできたら…という想いはずっとありました。

というのも、離婚協議の渦中に自分に残っていた、唯一の希望の火。それが「表現の仕事で生きていきたい」という強い想いだったのです。過去の自分を救うためにも、今を絶望しないためにも。いつか自分の作品で生きてやるという闘志が、苦しみの最中にいたときの心の支えになっていました。

そう強く欲望しながらも、実際は難しいんじゃないかという恐れや、まずは生活するためのお金を稼がなければという言い訳から、しばらくは真っ直ぐに自分の作品と向き合えませんでした。目先の収入が入る広告漫画に逃げ、漫画家養成講座にお金を落としては情報過多で自分の個性がわからなくなったりと、中途半端な状態がしばらく続きます。

流れ着いた場所で迎えた、人生の転機

そんな迷走を続けていたある日、スケッチブックと鉛筆を持って近所の海に一人散歩に出かけました。今でもよく覚えている、秋晴れの爽やかな10月の朝のことです。ひとり海を前に座ってスケッチブックを取り出し、海のスケッチをしながら頭に浮かんだことを書き出しました。

今の私にはまだ、商業に通用する創作漫画は描けないようだ。
でもいずれ広告じゃなくて、自分の作品を描くことを仕事にしたい。
この欲望は揺るがない。
この欲望を叶えることを放棄してしまったら、必ず後悔が残る人生になる。
だったらまず、今描ける範囲で自分の作品を描いてみよう。
すぐにお金にはならないだろうけど、数年単位で一歩ずつやっていこう。
……試しに、こんな漫画を描いてみるのはどうだろう?

そうやってひとりで頭の中を整理して、現状を受け入れて。気持ちが決まりました。

その後、五島での日常をエッセイ漫画風にして、『#にわか島暮らし』という作品を描き始めました。仕事の合間に毎週4ページ描いて、SNSに投稿するようになります。

立派なフィクションはまだ描けないけれど、身の回りのことから。いろんな情報や人からの評価に振り回される前に、ちゃんと自分の作品を描いていくことを少しずつ始めました。

この漫画がきっかけとなって、幸運にも週刊連載に挑戦する機会をいただくことになります。デビュー作はにわか島暮らしをベースにした、離島への移住フィクション。

初連載は1年ほどで打ち切りになってしまいましたが、それでも自分の感性で表現した作品を読んでもらえた喜びが忘れられず、「この道を生業にしたい」というたしかな手応えを感じていました。

現在は諸事情で別名義で活動していますが、2作目の商業連載を頑張っています。

デビューのきっかけとなった同人誌『#にわか島暮らし』の1ページから

“一生涯、漫画家としてたくさんの作品を描いて残したい。
作品を通して、多くの人の心を鼓舞していけるような人生になったら最高!”

西の果ての小さな離島で、私の人生の最優先事項が決まりました。
心理占星術でいう、太陽の目的というやつでしょうか。

離島は刺激も少ない分、ノイズに惑わされることも少ないようです。個人天体の中で唯一の陰サインである私の蟹座の太陽は、雑音の少ない環境で自分と向き合うことでようやく輪郭を表しました。

居場所を求めて宛もなく彷徨う人生から、生涯の目標に向かって舵を取る人生へ。がむしゃらに泳いで流れ着いた先で、ようやく他の誰のものでもない私の人生が始まったように思います。

羅針盤としての心理占星術

とはいえ、ヒット作家になるのは険しい道のりのようです。結果が全てな世界ですし、忙しさから体を壊して長期間執筆できない時期も…。もしこのままヒット作を出せなかったら? 一番の目標である「漫画家を続けること」は、果たして三年後できているのだろうか? そういった不安は常に頭の片隅にあります。

方向性を見失って迷子になった時は、現実の目標に向かうための道しるべ、羅針盤のように心理占星術やタロットの鑑定を活用しています。

現状の課題を明確にし、今の自分に欠けているもの、もしくは過剰になっているものを調整してちょうどいい状態に持っていく。心理占星術の考え方で教わったことです。自分の理想に現実を少しずつ近づけるために何をすればいいか、節目節目の鑑定を通して確認し、その後実行に移すよう心がけています。

正直スピリチュアル的なものに対して一部懐疑的な自分もいるのですが、実際に心理占星術やタロットの鑑定に助けてもらいながら現実を動かしてきた実感があるので、科学的に解明されていない力の存在を信じずにはいられません。

耳障りの良いきれいな言葉だけくれるような占いは嫌いだけど、現実に作用してくれる占術は好きです。個人天体に土サインがなくふわふわしがちな私にとって、心理占星術とタロットはとても頼もしいツールです。

また心理占星術の学びを通して、もっともっと自分自身になっていける、そんな感覚があります。

元々漫画のキャラクターを作る一助になればと思って学び始めた心理占星術ですが、学びを深めれば深めるほど、いわゆる12星座占いではとても括れない人間の個性の豊かさに圧倒されます。人間はこんなにも多様で、それぞれが唯一無二なのだ。生育環境から自分と他人との境界が曖昧だった私にとって、これは大きな発見でした。

そして自分とは全く違う他者の価値観や行動原理を知れば知るほど、相対的に自分だけの個性についても理解が深まります。かつては「憧れのあの人のようになりたい…」と、憧れの対象を常につくっていたのですが、心理占星術を学んでからは「もっともっと”私自身”になっていきたい!」そう強く思うようになりました。(まだまだ全然自分自身になれていなくて、迷走と模索の日々ではあるのですが…。)

根無し草で、どこまでやれるか

そんな感じで、私は流れ着いた西の果ての離島で、漫画を描いたり心理占星術を学んだりしながら暮らしています。

五島の海は場所や季節によって表情を変えます。

開かれた内海のビーチは透明度が高くとてもキラキラしている一方で、外海は波が荒く、かつて遣唐使船が難破しやすい難所でもあったそうです。隠れキリシタンが隠れ家に選んだだけあって、人の少ないのどかな風景は時に物哀しい印象にもなります。移住者が離島ドリームを掲げて移住してきては、理想とのギャップから早々に去っていくなんてこともよくある光景のようです。今も昔も、良くも悪くも流れ着く人の多い土地なのだろうと思います。

例に漏れず故郷を捨てここに流れ着いた私は、常に足元の心許なさを感じながら生きています。この土地にいつまでいるかもわからなければ、生涯をどこで終えるのかもまだ想像がつきません。何かあったときに帰れる実家がないという焦燥感は常に心の底に横たわっていて、住むアテを探しているという状況の夢を今でもよく見ます。九州は肌に合うと感じますが、おそらく何年住んだところでこの居場所に対する不安感は消えないのでしょう。それとも蟹座の太陽をもっといきいきと生きられるようになったとき、また違う境地が見えるのでしょうか。

でも五島に流れ着いてみて、「どこに行っても自分からは逃げられないのだ」ということに気づいてしまいました。どんなに環境や付き合う人を変えたところで、自分と向き合わなければ抱えている苦しみから逃れることはできないのだと。自分自身が変わり続けなければ、理想の未来を創っていくことはできないのだと。

だから私はどこに行こうと、変化を恐れずに脱皮し続ける自分でありたいです。蟹には蠍の毒のような強さもなければ、魚のように大海を優雅に泳ぐためのヒレもありません。大波小波に揉まれながらも、小さな歩幅で砂浜を歩いていきます。自分の足で、時に脱皮を繰り返しながら。
もしかしたらそんながむしゃらさこそが、私らしいのかもしれません。

次はどこに流れ着くのでしょうか。
先のことはわからないけど、まだまだ道のりの途中。精一杯足掻きながら、また流れ着いた先で今の自分を堪能してみようと思います。

九州で最後に夕日が沈む場所「大瀬崎灯台」。水平線の先には何もない。

ほとんど自分語りになってしまいましたが、ドラマを語るのも獅子座ステリウムを持つ私らしいかな…ということで。五島や福江島の観光名所等については観光ポータルサイトを始め多くの情報がインターネット上にあるので、興味を持ってくれた方はぜひ検索してみてもらえたら嬉しいです。

目的もなくどこかに流れ着いてみたい人、人生の転機で自分を見つめ直したくなった人、きれいな海を独り占めして、頭を空っぽにしたい人……そんな人は、五島に漂着しがいがあるかもしれません。

福岡または長崎経由で飛行機も出ているけれど、時間が許すのであればフェリーで流れ着いてみることをオススメしたいです。長崎港から4時間、もしくは博多港から深夜フェリーで一晩。ゆったりと波に揺られて寝転びながら、ぜひ流れ着きに来てみてください。

この記事を書いた人

七味さや さん


漫画家。連載『離婚サバイバー』『#にわか島暮らし』『どげんね!?ミケちゃん』など。30歳にて離婚後、長崎県の五島列島に移住。ほどよく引きこもりながら漫画を描いています。ホロスコープ実践講座を受講中(2024年12月現在)。


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